
9月21日にアメリカは年間7万人としているシリアなどの難民の受け入れを10万人に拡大すると発表しました。さらに、その内訳として1万人はシリア難民にわりあてるという計画も同時に発表しました。
これは、もともとオバマ大統領が「シリア難民を1万人受け入れる」とした方針の説明はあくまでも目安であり、これは最小限度の数を指し、上限ではないとの念押しです。
難民の問題は非常にデリケートでさらに誤解や偏見も多く、とりわけ日本は島国のため外国からの移民政策には陸続きの国に比べて後れを取っていました。そして、このスタンスは難民問題でさら顕著にあらわれます。
ここでは、まず難民とはなにか?シリアの難民問題はなぜ今になって浮き彫りになってきたのか、そして日本の難民政策はどのようなものなのかをまとめ、できる限りわかりやすく説明したいと思います。
私は六本木で入管専門の行政書士事務所を運営しています。いわゆる外国人のビザの取得は”出入国管理及び難民認定法”という法律で定められていてますので専門中の専門です。難民問題はなかなか語られることはなかったのですが、しっかりと説明します。是非参考にしてください。
Contents
シリア難民問題と日本のスタンス
そもそも”難民”とは?
難民というとあなたはどのようなイメージを持つでしょうか?
家がない、貧しい、戦争ばかりしている国の人たち・・・このように大変にイメージはわるいのが一般の認識の最大公約数でしょう。実際に私も勉強するまでは似たようなイメージでした。
”難民”という言葉の定義は、1951年にスイスのジュネーブで開かれた国際会議で決められ、
対外戦争、民族紛争、人種差別、宗教的迫害、思想的弾圧、政治的迫害、経済的困窮、自然災害、飢餓、伝染病などの理由によって居住区域(自国)を逃れた、あるいは強制的に追われた人々を指す
と定義されています。つまり、戦争や差別、貧困などで済む場所を奪われたか、あるいは自発的に逃れた人たちを示します。理由はいろいろあっても、自分の努力ではどうすることもできない理由が難民にはあるのです。
そのため、例えば日本に住んでいて、”日本の社会が嫌だから逃れよう”と思ってもこれらの理由がないので難民とは認定されません。ただの国籍離脱ということになります。
これらの難民認定の理由の違いから、例えば貧困からくる難民は経済難民、政治や主教から逃れる難民は政治難民、自然災害や伝染病などから逃れる難民を災害難民とも言います。
難民の受け入れとは?
では、今回のアメリカの難民受け入れはいったいどのような意味があるのでしょうか?
普通に考えれば、例えばアメリカならばアメリカの国民だけを見て、日本であれば日本国民のことだけを考えてほしいと思うのが自国民の考えでしょう。
「自分たちだけだったら裕福で平和なのになんでわざわざ貧困で危ない地域を逃れた人を受け入れるんだ」という意識も少なからずあるでしょう。
しかし、世界は第2次世界大戦の時の反省から現在は強い国際協調主義路線をとっていて、自国のことだけで完結しようとする国は先進国とは認めないという大きな流れがあります。
”困っている他人を助けよう”ということには意見は分かれてしまうかもしれませんが、私は賛成の立場です。たとえば日本でも民法という法律に「事務管理」といって隣の人が明らかに困っているだろうという場合は事前の承諾なくしておせっかいをしていいというものもありますし、そもそも憲法前文で国際協調主義のスタンスを明らかに表明しています。
この精神は、いってみれば相互扶助の精神が原点となっていて、”困ったときはお互いさま”を文章化したと思っていいでしょう。
難民の受け入れも、自分の努力ではどうすることもできない状況におかれた立場の人たちを、相互扶助の精神から自国で受け入れ、再出発の可能性を提供しようということなのです。
シリア難民とは?
中東の民主化要求運動(アラブの春)の影響で、シリアは2011年3月からデモが激化し、内戦化が問題となっていました。さらに過激派組織イスラム国の台頭で治安は極限まで悪化し、これが政治難民を生むきっかけになったのです。
約1800万人いるシリア人のうち、実に半数の人が難民だという説もあります。(この数は、シリア外、シリア内の難民の合計です。シリア内部にいても済む場所を追われれば難民扱いになります)
難民の側としても、逃れるのであれば受け入れ態勢があり、できれば経済的に余裕があって再出発の可能性の高い国に逃れたいというのが本音でしょう。そのため隣国のトルコではなく、ヨーロッパ圏に逃れるのです。
難民受け入れのリスクは?
では、相互扶助の観点から難民を受け入れるリスクはどのようなものがあるでしょうか?
リスクの1番は、やはり治安の不安定化でしょう。文化や宗教の違う隣人がいきなりあなたの家に住むとなったことを想像してみればわかりやすいでしょう。
難民の中には戦争の悲惨さや残酷さを知っている人が多いため、平和に対するモラルは受入国に比べると低いことも多いでしょう。経済や政治が未成熟の国だと、いきなり経済先進国で就労しようと思ってもついていくことは難しいと思います。
難民の側としても、受け入れてくれた時は感謝の気持ちを持ちますが、当然時の経過とともに感謝の気持ちは風化します。その結果、他国で生活するストレスがかさなり犯罪をおかすということにも発展する可能性も否定できません。
また、自国民からの反発もデメリットの一つです。
政治家が決めたこととはいえ、難民を実際に受け入れるのは国民一人一人です。当然難民の受け入れにも予算が必要ですから、「そんなところに税金を投入するんだったら自分たちに回してくれ」という本音も出るでしょう。これらが重なれば根深いところでは差別や偏見も生んでしまいます。
”どさくさ難民”の存在も?
難民の定義は「政治的・経済的な理由により、仕方なく住む場所を離れたひと」と説明しましたが、ではすべての人がそうかといえば、実態はなかなか難しい部分もあるといわれています。
なかには、「このままシリアに住み続けることもできるけど、混乱に乗じてシリアよりも裕福な国に逃れよう」というよりよい生活をもとめるひともいるのです。もちろんこのタイプのひとは本来は難民とはいえません。
相互扶助という、人間の良心によりどころのある難民の受け入れを利用するこれらの”どさくさ難民”は、いつか問題が表面化するかもしれません。
なぜアメリカは受け入れ数を拡大するのか?
では、このようなリスクを抱えるにもかかわらず、なぜアメリカは難民の受け入れを拡大するのでしょうか?
一つはアメリカが世界のリーダーなんだというアピールでしょう。「これだけ困っている人がいる。リーダーとして、見捨てるわけにはいかない」という義憤のようなものが受け入れ拡大につながっていることも事実でしょう。
これを理性的にとらえれば肯定的にとらえるべきでしょう。しかし、同時に他国にとっては「アメリカはさすがだ。かないっこないから従っていこう」という暗黙のプレッシャーを与えられているのも事実でしょう。
もう一つは、さすがにシリアの難民を本当に見捨てられないという手心もあると思います。ヨーロッパの経済は決して潤沢ではありません。そのヨーロッパで受け入れられる数には限界があります。このままではさらに治安・政治が悪化してしまうのでそれならばアメリカが引き受けようという思いもあるでしょう。
日本の難民受け入れは?
5000人申請して11人という現実
では、日本の難民受け入れはどうでしょうか。外務省の発表によると、2014年度の難民受け入れは、申請者数5000人に対して難民認定はなんと11人しかいません。
そして、”申請者数5000人”という発表からもわかる通り、正式発表であるにもかかわらず概算しか把握できていないのです。こんな大雑把な数字では、本当は5000人よりも多いのではないかと勘ぐってしまいますね。
(難民としては認定されませんが、人道的な理由から日本への在留が特別に許可された人は110人いました)
なぜ日本は難民受け入れに消極的なのか?
この数が多いか少ないかは人それぞれ意見が分かれると思いますが、少なくともアメリカの発表した数に比べると日本は移民の受け入れに消極的であるということがわかります。
なぜこうまでも難民の受け入れに消極的なのかは意見がわかれますが、やはり日本は島国精神というものがあり、自国のことは自国で完結させようという気風が強いのではないかと思います。
これは難民だけではなくて、移民政策においても同様です。
日本は現在、単純労働や重労働の要因としてのビザは絶対に発給しないですし、難民にだけ特別厳しいというものではなく、外国人の受け入れそのものにハードルを高くしているという見方もできます。
難民の立場になれば、移民受け入れの実績もなく、遠い異国の地にわざわざ行くよりは、すでに先人たちが受け入れられて、距離的にも近い国を選ぶのも無理はありません。
まとめ
いかがでしょうか?
僕がここで念押ししたいのは、難民というとどうしてもネガティブなイメージばかりが先行しますが、中には大変高度な教育を受けた人もいるし、自分の努力ではどうすることもできない理由によるものなので、理性から言えば受け入れは国際社会のモラルでもあるのです。
国家と個人は違いますので、たまたま国家のおかれている立地や政治的スタンスによって個人が迫害されるのは現在の先進国のスタンスとは大きな隔たりがあります。
受け入れることによってさまざまなリスクがあるのは説明した通りですが、とはいえ難民は社会の変動によって必ずどこかでうまれるもので、乱暴な表現ですが、人間でいえばはしかのようなものだととらえることもできます。
そのため、難民そのものは全体像を理解しないと誤解や偏見を持たれることも多いのですが、とはいえ目を背ける問題ではないと私は思いますが、あなたはどう思いますか?
私は国際業務を扱う行政書士として、今後も難民問題はこちらで紹介していきますし、できれば一人でも多くの難民を受け入れてほしいと願う一人でもあります。そのスタンスをはっきりさせたうえで、こちらでまたご紹介したいと考えています。
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